2010年度末川杯争奪法律討論会論題題


分野:憲法

 薬事法は、薬局開設者か医薬品の販売業の許可を受けた者(一般用医薬品を店舗において販売しまたは授与する「店舗販売業」の許可を受けた者、一定の一般用医薬品を配置して販売しまたは授与する「配置販売業」の免許を受けた者等)でなければ、業として、医薬品を販売してはならないと定めている(24条1項)。さらに、医薬品については店舗等における対面販売をしなければならないとしている(37条1項)。このため、郵送やインターネットによる一般用医薬品(「医薬品のうち、その効能及び効果において人体に対する作用が著しくないものであって、薬剤師その他の医薬関係者から提供された情報に基づく需要者の選択により使用されることが目的とされているもの」[薬事法25条1号]、つまりいわゆる市販薬)の販売は許されていない。こうした販売方法の規制は、市販薬であっても副作用があるので、薬の効能、副作用について薬剤師等が対面で消費者に説明することが必要であるとの考えから2006年の薬事法改正において導入されたものである(2009年6月1日施行)。もっとも、薬事法施行規則によって、2011年5月末日までは、薬局開設者および店舗販売業者が、「薬局」(調剤薬局)や店舗販売業の店舗(調剤をしない薬局)がない離島に居住している人と、これまで漢方薬などを郵送で販売していた人に対して、郵送販売をすることが、認められている。
漢方薬の調剤薬局を開設しているXは、電話での相談に基づき漢方薬を郵送して販売してきており、2009年5月時点で郵送販売が売り上げの3分の1を占めるほどであった。Xとしては、病名ではなく症状に対応する薬を処方する漢方薬の性格もあり、電話で症状を細かく聞いて漢方薬を郵送しているので、問題なく適切な漢方薬の処方をしてきたと自負している。それゆえ、現在施行規則による経過措置として認められている漢方薬の従来の顧客への郵送販売が来年6月以降できなくなることに、大いに不満である。また、遠方で簡単に来店できない人や高齢者からは、Xから郵送で漢方薬を購入できなくなると困るという不安の声が寄せられている。そこで、Xは、国を相手取り、来年6月以降も漢方薬の郵送販売ができることの確認を求めて訴訟を提起したいと考えている。
 Xがこの訴訟において薬事法37条1項およびその適用が違憲であるとどのように主張すると考えられるか述べた上で、その主張の適否につき検討しなさい。

出題;立命館大学法科大学院教授 市川正人