平成21年度 秋季関西学生法律討論会 論題


[分野]民法
次の@〜Gの事実を前提に問に答えよ
【事実】
@ AとBは1950年に婚姻して以来、Aの生家で主に農業により生計を営み、その間にはC・Dの二人の子があつた。
A 農地はすべてAが所有していたが、農業自体はA・Bが共同して行っていて、農業に必要な道具・肥料等を農協等を通じて購入する際にはBがAの名義で契約してこれを購入していた。これについて特にそのつどAの了承を求めることもなく、また支払いについてもAがこれを拒絶することは一度もなかった。
B ところが、1987年7月ころより、Aの言動に変調が見られるようになった。具体的には、物忘れがひどくなって、午前中に買ってきた物と同じ物を同じ日の午後に重ねて買ってくることが頻発し、また、食事したことすら忘れて食後2時間ほどで次の食事をとるようにもなっていた。さらに近所に住む幼馴染の顔や名前も忘れてしまうほどであった。また農業についても豪雨のさなか合羽を着用して草取りをしたり、収穫前の作物もこれを抜き取ったりするなどおよそ農業をするには困難な行動もみられるようになっていた。
C Aが農業に従事することが困難になったこともあり、BはAが所有する甲土地をKに売却することとし、1989年10月20日、BはAの代理人としてKとの間で甲土地の売買契約を締結した。その際、Bは1989年10月15日付のAの自署および実印の押印のあるAの委任状を持参していた(そこには甲土地の売却に関する一切の権限をBに授与する旨の記載があつた)。
D 上記売買契約に基づき、1989年11月20日をもって甲土地について所有権移転登記が経由された。
E Aは、Bで挙げたような変調が回復することなく、また、成年被後見の審判を受けることもなく、1994年3月22日死亡し、妻であるBと子C・DがAを相続した。なお、B・C・DはAを相続するにあたり限定承認はしていない。
F 2008年12月10日Bが死亡し、子C・DがBを相続した。なお、C・DはBを相続するにあたり限定承認はしていない。
G 2009年5月7日、C・DはKに対して、甲土地を相続により取得したとして所有権移転登記の抹消登記手続を求める訴えを提起した。
H 現在は2009年7月14日である。

問 C・DのKに対するGの請求が認められるか否か、Kからのあり得るべき反論を踏まえて、これを検討せよ。


出題者 神戸学院法科大学院教授 田中 康博